2021年2月3日水曜日

『花より団子』正宗白鳥


和歌にも俳句にも、物語にも絵画にも音曲にも、古代から今日まで、は讚美の限りを尽されてゐる。新たな讚美の言葉なんか残されてゐさうでない。鯛は魚の王、は花の王、獅子は百獣の王、人間は万物の霊長。


だが、あくる日、午餐のあとで、その離れの庭に出ると、昨日にもまして花の色づいたのに心惹かれて、またその木に登つて、二握り三握りつかみ取つて、口から喉へ通した。味がどうであらうと、綺麗なものを腹に入れたといふ気持は快くなつた。家の者に気づかれないうちにどれほどのものが喰はれるかと、人知れぬ異様なたのしみになつた。


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