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2021年2月4日木曜日

『四葉の苜蓿』堀辰雄


四葉の苜蓿は

人の近づく跫音に
耳を傾けてゐる

『ルウベンスの偽画』堀辰雄


彼女の顔はクラシックの美しさを持っていた。その薔薇の皮膚はすこし重たそうであった。そうして笑う時はそこにただ笑いが漂うようであった。彼はいつもこっそりと彼女を「ルウベンスの偽画」と呼んでいた。


「町へ行ってくれたまえ」彼はその自動車の中へはいった。はいって見ると内部は真白だった。そしてかすかだが薔薇のにおいが漂っていた。彼はさっき無造作にすれちがってしまった黄いろい帽子の娘を思い浮べた。自動車がぐっと曲った。


https://www.aozora.gr.jp/cards/001030/card4815.html

2021年2月3日水曜日

『辛夷の花』堀辰雄


僕はもう観念して、しばらくぢつと目をあはせてゐた。とうとうこの目で見られなかつた。雪国の春にまつさきに咲くといふその辛夷の花が、いま、どこぞの山の端にくつきりと立つてゐる姿を、ただ、心のうちに浮べてみてゐた。そのまつしろい花からは、いましがたの雪が解けながら、その花の雫のやうにぽたぽたと落ちてゐるにちがひなかつた。……


https://www.aozora.gr.jp/cards/001030/card52350.html

『花を持てる女』堀辰雄


どんな人でもいい、ただ私を大事にさえしてくれる人であれば。――それが母の一番考えていたことであったようである。それには母がいつもその人の前に頭を下げていなければならないようでは困る。その人のほうで母にだけはどうしても一生頭の上がらないように、その人が非常に困っているときに尽くせるだけのことは尽くしておいてやる。そういう不幸な人である方がいい。――そういった母の意にかなった人が、ようやく其処に見いだされた。


https://www.aozora.gr.jp/cards/001030/card4809.html