2021年2月4日木曜日

『ルウベンスの偽画』堀辰雄


彼女の顔はクラシックの美しさを持っていた。その薔薇の皮膚はすこし重たそうであった。そうして笑う時はそこにただ笑いが漂うようであった。彼はいつもこっそりと彼女を「ルウベンスの偽画」と呼んでいた。


「町へ行ってくれたまえ」彼はその自動車の中へはいった。はいって見ると内部は真白だった。そしてかすかだが薔薇のにおいが漂っていた。彼はさっき無造作にすれちがってしまった黄いろい帽子の娘を思い浮べた。自動車がぐっと曲った。


https://www.aozora.gr.jp/cards/001030/card4815.html

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