2021年2月4日木曜日

『木犀の香』薄田泣菫


草木の花といふ花が、時にふれ、折につけ、私達の心像に残してゆく印象は、それぞれの形と色と光との交錯したものに他ならないが、ひとり木犀はその高い苦味のある匂によつてのみ、私達にその存在を黙語してゐる。木犀の花はぢぢむさく、古めかしい、金紙銀紙の細かくきざんだのを枝に塗りつけたやうな、何の見所もない花で、言はばその高い香気をくゆらせるための、質素な香炉に過ぎないのだ。


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