2021年2月3日水曜日

『草の中』横光利一


二人は長らく默つて草の中からその病人の部屋を覗いてゐた。草の緑の匂ひが微風に搖られてさまようて來た。時々星が斬りつけるやうに流れた。遠くの道を歸る馬子の唄が聞えて來た。村はだんだんと眠つていつた。梨畑の番小屋の中で火が赤く燃え始めた。足を延ばし變へると草は冷めたかつた。さうして露は葉の上に降り始めた。


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