2021年2月3日水曜日

『樹の根』和辻哲郎


私の眼はすぐに老樹の根に向かった。地下の烈しい営みはすでに地上一尺のところに明らかに現われている。土の層の深くないらしいこの山に育ってあの亭々たる巨幹をささえるために、太い強靱な根は力限り四方へひろがって、地下の岩にしっかりと抱きついているらしい。あの巨大な樹身にふさわしい根は一体どんなであろう。ことに相隣った樹の根と入りまじって薄い地の層の間に複雑にからみ合っているありさまは、想像するだけで我々に驚異の情を起こさせる。


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